久しぶりの更新となります(記事のもととなる改定自体はだいぶ前に行われたのですが、忙しさにかまけて更新が遅くなってしまいました)。
今回は、慰謝料の算定基準の改定に関する記事です。
おさらい1。交通事故の慰謝料の3つの基準
まずはおさらいからしていきましょう。
交通事故における慰謝料の算定基準は、大きく分けて自賠責基準、任意保険基準、裁判基準(弁護士基準)の3つがありますが、今回は裁判基準(弁護士基準)の慰謝料に関するものです。
自賠責基準や任意保険基準(任意保険基準といっても全社統一の基準があるわけではなく、各社それぞれの内部基準にすぎませんが)が改定されたわけではないので注意が必要です。
すなわち、事故の相手方となる保険会社から提示される慰謝料の金額が当然に上がるものではなく、交通事故の被害者のほうでよく注意しなければいけない内容となります。
なお、弁護士基準の慰謝料といっても、実はいろいろな算定方法があるのですが、今回の改訂はその中でも最も重要と考えられる(よく使われている)赤い本という書籍に掲載されている慰謝料基準の改定となります。
おさらい2。交通事故の3つの慰謝料
交通事故の被害にあってケガをした場合、慰謝料を請求できるのが一般的ですが、一言に慰謝料といっても、大きく分けて3つの性格の慰謝料があります。
・一つは死亡慰謝料。交通事故が原因で死亡した場合の慰謝料です。
・一つは後遺障害慰謝料。交通事故が原因で後遺症が遺ってしまった場合の慰謝料です。
・最後に入通院慰謝料。交通事故による負傷が原因で、入院や通院をした場合に請求できる慰謝料です。
今回の改訂は、最後の入通院慰謝料(傷害慰謝料とも言います)の算定基準の改定となります。
赤い本別表Ⅱ基準の改定内容
赤い本には慰謝料の算定基準として、別表Ⅰと別表Ⅱとがありますが、今回改定されたのは別表Ⅱのほうです。
赤い本の別表Ⅱは、他覚所見のないむち打ち、頚椎捻挫、腰椎捻挫や軽い打撲などで使われる基準となります。
実通院日数ではなく、入通院期間をもとに算定されることに
今回の改訂の大きなポイントです。
従来の基準(赤い本2015年版まで)では、(1)通院期間を限度とし、(2)実治療日数の3倍程度を目安とする、とされていました。
これは、いわば通院の期間ではなく、実際に病院に通院した日数を基準とするというものでした。
そうすると、同じように痛い想いをしても、仕事のためなかなか病院に通えなかった人はほとんど慰謝料をもらえず、病院に通院する余裕があった人だけきちんと慰謝料がもらえるという事態が生じていました。
このような算定方法の正当性についてこれまでも議論のあったところでしたが、このたび、東京地裁の裁判例の分析が行われ、今回の改訂に至りました(従来の基準は裁判の実態を反映していないと認められたためです)。
ポイントとしては、
・入通院『期間』を基礎とする
・通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。
と、赤い本2016年版では、他覚所見のないむち打ち等場合でも、原則として入通院期間を基礎として算定することが明記されました。
軽い打撲や軽い挫創(傷)の場合でも別表Ⅱを使用することが明記
これは大きな改定ポイントとは言えませんが、従来から、他覚所見のないむち打ち以外でも、軽い打撲や軽い挫創(傷)については別表Ⅱが使用されているのではないかと指摘がありました。
それを明記したものとなります。