タレント、俳優、お笑い芸人などの一般に芸能人と呼ばれている人たちが交通事故にあった場合、一般の人と同じように慰謝料や休業損害を請求できます。
芸能人の慰謝料というと、離婚騒動で何千万円の慰謝料だのというのをイメージされる方が多いでしょうが、あれは法律を適用して慰謝料を決めた結果ではなく、双方が合意したために金額が通常ではいささか考えられないくらい高騰したにすぎません。また、財産分与も含まれている可能性もありえます。
交通事故のケースでは、被害者が芸能人でも一般人でも慰謝料の金額に大きな違いはないでしょう。
(モデルをしていて外貌醜状が残ったという場合には慰謝料の増額が考えられますが、芸能人しか増額されないというものではありません)
芸能人の逸失利益
芸能人が交通事故被害にあった場合の損害賠償の悩みどころとしては逸失利益があげられます。
逸失利益とは交通事故で後遺症が残った場合や、あるいは交通事故のために死亡した場合に、このような交通事故(による後遺症または死亡)さえなければ得られたであろう利益のことです。
たとえば、交通事故で寝たきりの状態になってしまったという場合、事故で寝たきりにさえならなければ働いて収入を得られたはずです。
これが逸失利益であり、損害賠償請求が可能です。
ただ、芸能人の逸失利益というのはなかなかに難しいところがあります。
裁判例がほとんどない
芸能人の逸失利益に関する裁判例というのはほとんどないように見受けられます。
弁護士は一般的に過去の裁判例をもとに結果を予測していくのですが、過去の裁判例が乏しいので予測が難しくなります。
結局は事実認定の問題
また、芸能人の逸失利益は法解釈の問題ではありません。
芸能人だから逸失利益がある、芸能人だから逸失利益がない、という問題ではなく、「今回、交通事故の被害にあった芸能人は、事故さえなければいくら稼いでいたか」という事実認定の問題になります(つまりはいくら稼げたかということを立証しなければならない)。
そのため、ある芸能人については大きな逸失利益が認められるが、またある芸能人については芸能人としての逸失利益はほとんど認められず、賃金センサスなどを基準に逸失利益が算定されるということがあり得ます。
なにを基準に逸失利益を算定するのか
本人の能力や実績、経験、流行に影響を受けるかどうか、年齢的に制限がありうる職務内容か、などの諸般の事情をもと決めざるを得ないでしょう。
たとえば、(失礼ですが)一発屋芸人といわれる人がよくテレビに出演していらっしゃいますが、彼らがブレイク中に交通事故の被害にあった場合、ブレイク中の年収を基準に就労可能年数までの逸失利益が認められるかというと非常に難しいでしょう。
1年か2年程度の逸失利益についてはブレイク中の年収を基準に算出し、そのあとの年収は平均賃金センサスなどをもとに算出することなどが考えられます。
ただ、突然ブレイクしていたわけではなく事務所が全力で売込みをしており、息の長い活躍ができるように努力をした成果である場合などはプラスの要素になりうるでしょう。
これに対して、レギュラー番組を持っていて、長期間芸能界で活躍されている方であれば、事故の前年度の年収などをもとに就労可能年数までの逸失利益が認められる可能性が高いでしょう。
また、最近はテレビに出ないけどもイベントなどで安定した収入を得られている方であれば、就労可能年数までの逸失利益が認められる可能性が比較的高いと思われます。
上述たところでもありますが、このように、芸能人の逸失利益は結局は事実関係の立証の問題にいきつく(裁判官に「この人なら長期間安定収入を得られたはずだ」と思わせる)のであり、きめ細かい立証こそが重要といえます。