昨日は、他覚所見のないむち打ち等の赤い本の入通院慰謝料算定基準(別表Ⅱ)が改定されたことにふれました。
簡単に言えば、むち打ちや軽い打撲などのケースでは、裁判基準でも従来は週2~3日のペースで通院していないと満額の慰謝料がもらえませんでした(訴訟をすれば別ですが)。
2016年版の赤い本でこの基準が改定され、よくあるむち打ちなどのケースでも、原則として通院期間をもとに慰謝料を算定することとなりました。
それでは、実際に何日通院したかはもはや重要ではないでしょうか。
もちろん、実通院日数の重要性は下がったと言えるでしょうが、今なお実通院日数が慰謝料の算定に影響を与えるケースがあるので注意が必要です。
通院が長期化した場合には、実通院日数が重要になることも
実通院日数が大きな影響を及ぼす可能性があるケースの一つは、通院が長期化した場合です。
赤い本では、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」と明記されています。
このように書くと、通院が長期にわたる場合って具体的にどれくらいか疑問にもたれるかたも多いでしょう。
残念ながら私も明確な回答を持ちあわせておりません。
どれくらいで通院が長期化しているかというと、ケースバイケースとなります。
同じむち打ちでも症状の程度や治療内容、検査結果で異常がみられたか否か等で変わってくるでしょう。
ただ、1点ここで重要なのは、あくまでも通院期間が原則であり、実通院日数の3倍の期間を慰謝料算定の基礎するのは例外的である、ということです。
相手方(相手損保等)としては、実通院日数の3倍基準を主張してくることもあるでしょうが、そのような算定方法はあくまでも例外的であると主張していくことが重要でしょう(もっとも、相手方の主張が正しいケースもありますので、まずは弁護士へのご相談をおすすめします)。
自賠責基準は改定されてはいないことに注意
交通事故の加害者が任意保険に加入しておらず、自賠責保険もしくは政府保障事業からの賠償金の補填くらいしか期待できない場合も実通院日数に注意が必要です。
このたび改定された赤い本は、あくまでも裁判基準(弁護士基準)の慰謝料算定方法です。
自賠責保険の慰謝料算定基準は改定されていません。
簡単に説明すると、自賠責保険では、傷害慰謝料を1日4200円とし、通院期間もしくは実通院日数の2倍のいずれか短いほうをかけて算出しているようです。
たとえば通院期間が180日なのに対し、実通院日数が30日の場合には、実通院日数を2倍した日数(60日)のほうが短いので、4200円×60日と計算します。
4200×60=252,000円
これに対し、通院期間が180日に対し、実通院日数が100日の場合には、実通院に数を2倍した日数が(200日)のほうが短いので、通院期間のほうを採用し、4200円×180日と計算します。
4200×180=756,000円
このように、自賠責保険からきちんと慰謝料をもらおうとすると、いまだに実通院日数が重要になっているので注意が必要です。
とはいえ、自賠責保険には120万円の限度額があるので注意
もっとも、自賠責保険は傷害部分については120万円までという限度額が設定されているので注意が必要です。
たとえば、きちんと慰謝料をもらおうと思ってたくさん通院しても、治療費や休業損害が多額で120万円の枠を圧迫しているケースでは、自賠責の枠を超えてしまうケースも珍しくありません。
裁判所は自賠責の計算基準に縛られないので、訴訟という手段もあり
通院期間が長くなりそうなケースでは自賠責の120万円の限度額を超えることも珍しくありませんし、自賠責基準では裁判基準の慰謝料よりも低くなるケースが多いです。
このようなケースでは、実は、自賠責基準に固執せず、裁判所に訴えて自賠責保険に損害賠償金を請求するのが有効だったりします。
裁判所は自賠責の算定基準には拘束されないので、通院期間180日、実通院日数が30日というケースでは、自賠責基準の慰謝料は上記のとおり25万2000円となるでしょうが、裁判所は89万円と判断する可能性があります。
このように、加害者が任意保険に加入していないような場合には、自賠責保険基準に従ってきちんと保障を受けられるようにするか、それとも、訴訟を見据えるか、という判断が必要になりますので、事故の被害にあった場合にははやめに弁護士に相談されることをおすすめします。