まとめると
・嗅覚障害・味覚障害の逸失利益は、性別や年齢、減収の程度、職業に対する具体的な影響の程度が重要
・嗅覚障害・味覚障害は、主婦業にも多大な影響を及ぼすと考えられる
・嗅覚障害や味覚障害が影響を及ぼすとはいいがたい職業もあるが、その場合には、後遺症慰謝料で考慮されるよう主張することも考えられる
逸失利益とは
交通事故の被害にあい、治療をしていっても、全てのケースが完治するとは限りません。
中には、痛みやしびれなど、何らかの症状が残ってしまうことがあります。
このような『後遺症』がある場合には、後遺障害慰謝料の請求が可能となります。
これに加え、『後遺症』があると、今後の労働や転職に支障が生じ、事故さえなければ得られたであろう収入を失ってしまう可能性があります。
このような、後遺障害による収入減少を、後遺症逸失利益(交通事故の後遺症のため、失ってしまった利益。ほか、死亡逸失利益というのもあります)といいます。
逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率(後遺症のため、どれだけ労働能力が失われたか)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で計算されるのが一般的です。
労働能力喪失率表に基づく労働能力喪失率
嗅覚障害や味覚障害が残った場合の労働能力喪失率は以下のとおりです(労働能力喪失率表に基づく)。
嗅覚脱失または味覚脱失(12級相当)→14%
嗅覚減退または味覚減退(14級相当)→5%
嗅覚障害・味覚障害の逸失利益算定においては、職業等との関連が重要
嗅覚障害や味覚障害がある場合には、逸失利益の存否について争われる可能性があります。
つまりは、嗅覚や味覚に障害が残っていても、収入には影響しないのではないか、ということです。
そのため、性別や年齢、減収の程度、嗅覚障害・味覚障害の職業に対する具体的な影響等を主張・立証していくことが重要と考えられます。
嗅覚・味覚が重要な職業
調理師など、料理人にとっては、嗅覚や味覚は、味付け等のために重要な役割を果たします。
このような職業にある方が嗅覚や味覚に後遺症残った場合には、仕事に大きな影響を受けることになるでしょう。
そのため、障害の程度や支障が生じる状況に応じて、労働能力喪失率表の数値よりも高い喪失率を認めた裁判例もあります(たとえば、東京地判平成13年2月28日・交通民集34巻1号319頁)。
主婦業にも影響がある
嗅覚や味覚は、調理師等の職業にある人だけが影響を受けるものではありません。
専業主婦や兼業主婦にとっても、嗅覚や味覚に障害が残ると、今後の主婦業に多大な影響を及ぼす可能性があります。
この点に関しては、次回、もう少しくわしく触れます。
嗅覚障害・味覚障害では逸失利益が認められないことも
嗅覚障害や味覚障害は、調理師のように、多大な影響をもたらす職業もあれば、とくに影響がないと言わざるを得ない職業もあります。
逸失利益そのものが否定されるおそれもありますので、職業に具体的にどのような影響があるかをきちんと主張立証し、場合によっては、慰謝料で考慮してもらうよう主張することも考えられます。