思わぬ落とし穴に注意
交通事故の被害者の方のうち、ほとんどの方は、法律をくわしく知らないでしょう。
もっとも、法的知識がなければ、何もできないかというと、一般的にそういうことはないでしょう。
相手方が任意保険に加入しているのが一般的でしょうし、その場合には、相手損保が様々な対応をしてくれるでしょう。
しかしながら、相手損保はあくまでも加害者の側の立場です。
被害者のために、治療費の内払いを行ってくれたり、適切な補償を受けるため、多少のアドバイスはしてくれるかもしれません。
しかし、正当な損害賠償を受けるために必要なアドバイスまでしてくれるかというと、疑問があります。
相手損保の担当者が親身に対応してくれるような場合、勘違いをしがちなのですが、相手損保はあくまでも加害者のために弁済代行を行っているにすぎず、自分(被害者)のために全力を尽くす義務などはない、ということに注意をすべきです。
また、交通事故の損害賠償に関して、早期に対応しておかないと、あとで気づいても手遅れになるようなものも存在します(たとえば症状固定後に、実通院日数が慰謝料算定に関係すると知っても、今更、通院回数を増やすこともできないでしょう)。
そこで、ここでは、交通事故の被害者(むち打ちを対象)のために、早期に確認しておくべき(と考える)3つのポイントに絞ってアドバイスをしていきます。
なお、もっと詳しい解説(このほか、ここではとりあげませんが、因果関係の立証のため、早期に通院開始すべきという点などもあります)を見たい方は、むち打ち・頚椎捻挫相談室のページをご覧ください。
ポイント1:通院の日数によって、慰謝料が変化する
交通事故の被害のため、病院に通院すると慰謝料を請求できますが、入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、実通院日数に応じて変化します(以下のケースは、いずれも他覚所見のないむち打ちを想定)。
たとえば、週3回の通院ペースで6か月間通院したとしましょう。
この場合の入通院慰謝料は、89万円です(赤い本別表Ⅱ基準)。
これに対して、月1回のペースで6か月間通院したとしましょう(実通院日数6日)。
この場合の入通院慰謝料は、11万4000円です(赤い本別表Ⅱ基準を参照)。
このように、通院日数によって、慰謝料が大幅に減ることがありますので、むち打ちや腰椎捻挫などのケースでは、週2~3回のペースで、きちんと通院することが肝要といえます(正確には、通院期間÷3を下回らない日数)。
ポイント2:健康保険や労災を使う必要はないか
加害者が対応してくれないような場合にはもちろん、加害者(またはその保険会社)が治療費を支払ってくれているような場合にも、注意が必要です。
加害者は、治療費をいったん支払っても、それにまったく文句を言わない、というものではありません。
過失相殺が問題になるようなケースでは、既払いの治療費についても、過失相殺を求められるでしょう。
たとえば、治療費が100万円かかったケースで、過失割合が20:80(被害者:加害者)とします。
この場合、加害者側の保険会社が治療費を全額支払ってくれても、それは過失相殺をしない、という趣旨ではありません。
示談段階になって、払いすぎた20万円(過失相殺分)は返してください、と主張されるでしょう。
そのため、過失相殺が問題になるようなケースでは、健康保険や労災を使うなどして、治療費を安く抑えることも考慮する必要があるでしょう。
ポイント3:後遺障害の立証に備えた検査を
交通事故によるケガは、そのすべてが完治するとは限りません。
中には、後遺症が残ってしまうこともあるでしょう。
このような場合には、後遺症の存在について立証していかなくてはいけません。
後遺症を立証する際には、単にここが痛い、ここにしびれがある、と自覚症状を訴えるだけでは難しいでしょう。医学的な説明、または証明ができるか否かが肝要です。
むち打ちのケースで、四肢にしびれがある等、神経根症状が疑われるような場合には、MRIを受けておく、腱反射テストを受けておくなど、その症状に応じた医学的な証拠を残すよう努める必要があるでしょう。
弁護士費用特約についても注意
このほか、弁護士費用特約の存在についても注意が必要です。
交通事故の被害者の方は、弁護士に相談・依頼することによりメリットがある方も多いです。
弁護士費用特約を利用することで、弁護士費用の全部または一部をまかなえますので、利用できる保険がないか、きちんと調べることも必要でしょう。