まとめると
・サーモグラフィーについて、損害保険料率算出機構は、臨床的意義が確立されていない、と判断したことがある。
・しかし、他の他覚的所見を支える補助的資料や、心因的影響とする主張に対する反論として、有効性があるのではないか。
・裁判所は、損害保険料率算出機構の判断に従うわけではない。
今回の記事のソース
今回の記事では、東京地判平成25年11月27日(自保ジャーナル1914号37頁)の判例をもとに解説しています。
ご興味のある方は、判決理由等をご覧になってみてください。
判決の概要
本件は、交通事故のため、頚椎捻挫等の傷害を負った被害者が、自賠責段階では、14級と認定されたものの、自身の後遺障害は12級に相当するものであるとして、提訴したものです。
裁判所は、結論として、12級ではなく、14級が相当だと判断しました。
ただし、今回の記事では、裁判所の判断ではなく、判決理由中にあらわれる、損害保険料率算出機構の判断に着目しました。
裁判所は、自賠責の判断に拘束されないが、重視する傾向にある
裁判所は、自賠責の等級認定の判断には拘束されません。
そのため、自賠責保険の側で、14級と認定されても、いやいや、私の後遺障害は12級が相当ですよ、と提訴することは可能です。
ただ、裁判所は、自賠責の判断には拘束されずとも、重視する傾向にあります。
また、裁判外での交渉やADRを用いる際も、自賠責で認定された等級をもとに、交渉等がなされるのが一般的ですので、たとえ裁判外でも認定された等級は重要と言えます(むしろ、裁判外では、自分はもっと上の等級なんだと主張しても、一般的に、相手損保が受け入れることはないでしょう)。
むち打ちの後遺障害等級について
頚椎捻挫やむち打ちのため、痛みやしびれが残ってしまった場合に、認定される後遺障害の等級は、一般的に、12級か14級となります。
12級と14級の分かれ目は、他覚的所見の有無(つまりは、医学的な証明が可能であれば12級、医学的な証明まではできずとも、医学的な説明が可能であれば14級)にあるとされています。
そのため、むち打ち等の末梢神経障害においては、痛みやしびれといった後遺症を医学的証明できるかどうかは、非常に重要とえいます。
末梢神経障害におけるサーモグラフィーの評価
サーモグラフィーというのは、体温を見る検査方法です。
痛みやしびれなどの神経症状が生じている部分は、体温が低下していることがあり、サーモグラフィーにより、体温の低下が立証できる、というわけです。
そして、このサーモグラフィーについて、損害保険料率算出機構は、以下のように評価しています(判示より引用)。
『サーモグラフィー検査の主たる目的を確認すると、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)、動脈疾患、外傷性動脈損傷、静脈疾患、血管腫など血液の循環障害の診断に有効な補助検査法とされているが、サーモグラフィーによる末梢神経麻痺領域(冷感等)の診断については、検査方法等を確実に順守することが必要であり、臨床的意義については、現在でも確立されたものとは捉えられない段階とされている。』
『これらのことから、サーモグラフィー検査の異常をもって、直ちに神経系統の障害を証明するものと認めることは適切ではないと考える。』
簡単にまとめると、サーモグラフィーは、臨床的意義が現在でも確立されたものとはとらえられない(末梢神経障害の診断において)。したがって、サーモグラフィー検査の異常をもって、直ちに神経障害が証明されたとはいえない、というわけです。
それでは、サーモグラフィーは無意味か
臨床的意義が現代でも確立されていない、と言われてしまうと、なんだ、それなら無意味か、と思われるかもしれません。
もちろん、サーモグラフィーしか他覚的所見がないとなれば、医学的証明とするのは困難でしょう。
しかしながら、サーモグラフィーの臨床的意義は未だ確立されていないと評価されているだけであって、無関係と断じられているわけでもありません。
そのため、他の他覚的所見(MRIで椎間板ヘルニアが確認されているなど)を支える、補助的効果はあるのではないでしょうか。
つまりは、他の検査結果とあわさることにより、効果を発揮するのではないかと考えられます。
サーモグラフィーは、心因的な影響という主張に対する反論にもなり得る
さらに、むち打ちの原因は、様々なものが考えられます。
時には、心の問題が症状に影響を及ぼすことがあります。
相手方や自賠責調査事務所では、この点を突いてくることもあるでしょうが、サーモグラフィーという客観的な検査結果を提示することによって、心因的な影響ではないんだ、という反論ができるでしょう。
この点でも、意義が認められるのではないでしょうか。
裁判所の評価は固まっていない
臨床的意義が確立されていない、というのはあくまでも、損害保険料率算出機構の一判断であって、裁判所の判断ではありません。
裁判所は、サーモグラフィーに対する評価を未だ固めていないと考えられますので、証拠に基づいて、臨床的意義をきちんと立証していくことによって、これを重視してくれるかもしれません。