まとめると
・痛みがあると、筋肉が細く、かつ、硬くなり、筋肉中の血流量が減少→体温が低くなると考えられている
・交感神経系の関与により、血管が収縮→体温が低くなることがある
・サーモグラフィーは、MRI等、他の検査結果と組み合わされることで強力な立証手段になり得ると考えられる
後遺障害は立証していく必要がある(前提知識)
交通事故によるケガは、そのすべてが完治するとは限りません。
中には、痛みやしびれといった症状が遺ってしまうこともあります。
このような場合には、後遺障害として認定される可能性があります。
指や腕を失ったというのであれば、そのような後遺障害が残存しているかどうかは、わかりやすいでしょう。
これに対し、痛みやしびれといった末梢神経障害は、自覚症状ですので、外から見ただけではわかりません。
痛みがあるかないかをはっきりとさせる検査方法もないので、様々な検査結果をもって、痛みがあることを立証していくひつようがあるのです。
サーモグラフィーの検査結果は、このような末梢神経障害を立証する際に、用いられることがありますが、なぜサーモグラフィーが有効なのでしょうか。
その理由について解説していきます。
本記事のソース
今回の記事は、東京地判平成8年1月23日(交通民集29巻1号79頁)の判例において、事実認定された部分をもとに記述しています。
サーモグラフィーが有効な理由
サーモグラフイーとは、生体表面の放射熱を外部から感知して画像化する機械のことです。
これにより、人体の体表温度を面的に知ることが可能となるのです。
そして、慢性的な痛みがあると、力を入れることができないために筋肉が細く、かつ、硬くなり、筋肉中の血流量が減少して体温が低くなると考えられています。
また、交感神経系の関与により、血管が収縮して体温が低くなることもあります。
これには、交感神経節が刺激された場合、当該末梢細動脈が攣縮を起こし、痛みと同一部位の皮節が血行低下により低温となるとの系統と神経根の圧迫障害に伴つて被支配筋肉の収縮が起き、その結果、筋肉中の血流量が減少して低温となるとの系統があります。
また、心因性の反応による痛みの場合には、サーモグラフィーに異常は生じないという特徴があります。
サーモグラフィーの欠点
このようなサーモグラフィーにも欠点があります。
それは、『痛みがある場合、当該部位に温度異常がある』ということができても、その逆の『異常温度分布の存在があれば痛みがあるとは限らない』ということです。
そのため、サーモグラフィーは、単体での証明力はそれほど高くはないのではないかと考えられます。
サーモグラフィーと組み合わさると有効と考えられる検査
もっとも、単独での証明力は高くなくとも、他の検査結果と組み合わさることにより、証明力が増すのではないかと考えられます。
その検査方法としては、まずは、MRI検査が考えられます。
MRIは、画像として異常がわかるので、単体でも、非常に有力な証拠となり得ます。
MRIにより、椎間板ヘルニアや筋萎縮が確認され、以上が確認された部位(椎間板ヘルニアの場合には神経根の支配領域)の温度が低下している場合には、痛みなどの自覚症状を裏付ける、強力な証拠となり得るでしょう(後遺障害等級12級の認定もあり得ます)。
また、筋萎縮検査とサーモグラフィーを組み合わせることも有効でしょう。