まとめると
・椎間板の狭小化と神経根症状誘発テストの陽性結果等をもとに、後遺障害等級12級を認定した裁判例がある。
・椎間板の狭小化は、年齢による変性であると認定しながらも、12級に該当すると認定している。
・ただし、椎間板の狭小化が年齢による変性である点は、素因減額で考慮されている。
裁判例の出典
今回の記事は、東京地判平成12年8月31日交通民集33巻4号1425頁の裁判例をもとにした記事となっています。
事案の概要
本件は、交通事故の被害にあい、頚椎捻挫と診断された被害者が、病院に通院したものの、右上腕部のしびれが残ったという事案です。
検査結果としては、第5、第6頸椎の椎間板狭小化が確認され、骨棘の形成が認められています。
また、スパーリングテスト、イートンテスト、ジャクソンテストといった神経根症状誘発テストの結果は陽性となりました。
自賠責の等級認定においては、12級が認定されています。
これに対し、加害者側は、後遺障害等級14級の場合でさえ、ほとんど常時疼痛を残すことが14級認定の条件になっているのに対し、今回の被害者には、症状固定後、常時疼痛があるとはいえない状況であるため、12級は相当ではないと主張しました。
判決の概要
後遺障害の等級に関して、裁判所はいかのよう判示しました。
原告に残存した右の上腕部のしびれは、本件事故直後から一貫して継続している。
そして、この症状は、第五頸椎と第六頸椎の椎間板の狭小化に伴う神経症状であると考えられており、神経根症状を調べる検査においても陽性の反応が現われるなど、他覚的にも裏付けられている。
第5頸椎と第6頸椎の椎間板の狭小化は加齢性のものであるが、本件事故直後からしびれが発症し、症状の発生源について医学的裏付けが存在する上、その症状の内容も本件事故直後から一貫して継続し、仕事への影響も小さくはないといえるから、12級に相当するとしました。
加害者側の主張に対しては、「自動車損害賠償保障法自賠法上、常時疼痛があることを第一四級一〇号に該当する要件とする規定は存在しないし、仮に、それが自動車保険料率算定会の内部基準であるとの趣旨であるとしても、それに拘束される理由はない」と断じました。
ポイント
今回の事例では、やはり、第5頚椎と第6頚椎の椎間板の狭小化が画像上確認されていることが大きなポイントになったのではないかと考えられます。
他の裁判例を見渡しても、MRIやCT等で異常が確認されている場合には、12級が認定された例が多いように思われます。
もちろん、単に画像上の異常が確認されているというだけではダメでしょう。
被害者の症状が出ている部位(今回は右上腕部)と神経の支配領域(今回はC5/6)が一致していなければ意味は大きくないでしょう。
なお、椎間板の狭小化が加齢によるものだと認めながら、12級に該当すると認定した点は注目に値します。
その他のポイント
この裁判例では、法人役員の休業損害についても触れている点は興味深い判示ですが、後遺障害に関連する点では、他に、素因減額を認めている点も注目されます。
すなわち、椎間板の狭小化が加齢によるものだとしても、12級に該当するとしながら、ただ、この点(プラス、薬を医師の指示通り服用しなかったり、通院頻度も少なかった点も考慮)を素因減額として用い、損害賠償額を2割減額しています。