紹介する裁判例
今回紹介する裁判例は、千葉地判昭和62年11月27日(交通民集20巻6号1510頁)です。
この裁判例は、当時、A級一班に所属していた競輪選手の方(事故時30歳、症状固定時32歳)が自転車にのり、交差点を青信号で直進しようとしたところ、右折してきたトラックに衝突されたという事例です。
競輪選手の方はこの交通事故のため、外傷性てんかんなどの重い後遺障害が残り(併合6級)、提訴に至りました。
事案の概要
・事故は昭和58年
・事故当時の競輪選手は、A級1班~5班、B級1班~2班とクラス分けされていたが、被害者の方は当時A級1班に所属していた
・昭和58年の事故当時もA級の上にS級が存在していた(A級1班だからといって最高位ではなかった)
・昭和60年6月に、S級1班~3班、A級1班~4班、B級1班~2班という分類に変わった
・昭和60年の新しい分類だと、新A級1班は級A級2班~3班に相当する。旧A級2班及び3班の平均年齢は28歳~30歳
・旧A級5班の平均年齢は36歳~38歳
・62歳の現役競輪選手も存在する
裁判所の判断
・被害者の方は、35歳までは新A級1班で働くことができたはずなので、35歳までは事故の前年度の収入を基に算出して逸失利益を認める
・36歳~40歳までは旧A級5班の平均賃金で算出して逸失利益を認める
・41歳~62歳までは旧B級1班及び2班の平均賃金で算出して逸失利益を認める
弁護士の解説するポイント
競輪選手のような肉体を駆使するスポーツ選手は、年齢による肉体の衰えとそれに伴う収入の減少は避けられないものです。
そのため、単純に事故の前年度の収入を基準に、67歳までの逸失利益が認められるということはないのが一般的です。
今回のケースでは統計を非常に活用していますが、競輪選手の交通事故に関する他の裁判例(静岡地判昭和54年1月31日・自保ジャーナル294号など)もこのような統計に基づいた認定をしています。
交通事故にさえあわなければどのような収入を得られていたのか、ということを認定するにあたってこのような統計は非常に大きな意味を持ちます。
ただ、競輪選手の中でもすべての選手が旧A級1班にまでたどり着けるものではないでしょう。
今回のようなケースで別の結論を裁判所から引き出すには、旧A級1班にまであがった人のその後の級班の変遷などを統計に基づいて立証できれば大きな意味を持ちうるでしょう。