【事例の紹介】
本件の被害者(女性・兼業主婦)は、外貌醜状のため、後遺障害の等級としては、7級が認定されました。
醜状の内容としては、前額部に長さ9.5センチメートルの線状痕が、人目に付く程度であり、長さ5センチメートル以上の線状痕なので、旧基準に照らして、7級と認定されました。
※なお、現在は、長さ5センチメートル以上の線状痕だと、後遺障害の等級としては9級として認定されるのみで、7級と認定はされません。
また、醜状痕だけではなく、前額部に、痛み、つっぱり感、しびれ、知覚異常を伴っていました。
相手方(被告)は、労働能力喪失率について、前額部のつっぱり感やしびれ感があるとの事実を前提としても、逸失利益は14級相当の5%からせいぜい10%であるとして、争いました。
前提知識
労働能力の喪失率は、労働能力喪失率表が参考とされるのが一般的ですが、同表によると、喪失率は、
7級:56%
9級:35%
となります。
【判決】
逸失利益について、裁判所は、労働能力喪失率を20%とした上で認めました(神戸地判平成25年11月28日・自保ジャーナル1916号17頁)。
判断の要素は、以下のとおりです。
(1)傷痕の位置と程度(人目につきやすい部位にあり、長さ9.5センチメートルにも及ぶ半円形の線状痕であること)
(2)実際に、被害者がも始終人目を気にしている状況にあり、労働効率の点などに悪影響が及んでいると考えられること
(3)前額部のつっぱり感は現在まで常に続いており、傷痕部分に手などが触れると電気が走ったようなしびれ感があること
(4)自賠責の等級認定では否定されているものの、頚椎捻挫のため、首から肩にかけての重苦しさや首の凝り、耳鳴り、めまい、頭痛があること
(5)被害者の現実の収入は減少していないが、それは、被害者が、日々相当程度の努力を積み重ねているためであること
(6)被害者が、今後、転職する場合に、相当程度の不利益があること
後遺障害慰謝料についても注目
平成23年に等級表が改正されたため、現在の基準でいくと、被害者の方は7級ではなく、9級として認定されることとなります。
7級:1000万円
9級:690万円
となります。
この場合、認定された等級を重視すべきか、現在の基準に照らして認定されうる等級を重視すべきか問題となりますが、裁判所は、後遺障害慰謝料として1030万円を認めましたので、実際に認定された等級を重視したものといえるでしょう。
後遺障害の認定の際に、きちんと、神経症状も申請すること
今回、後遺障害等級としては、外貌醜状の点では7級、神経症状の点では14級が認定されています。
神経症状で14級が認定されても、併合して6級とはなりません。7級から上がりません。
認定された等級のみをみると、「外貌醜状で7級が認定されるのなら、神経症状は別に申請しなくてもよかったんじゃないの」という疑問が浮かぶ人もいるでしょう。
たしかに、14級相当の神経症状であれば、等級の数字自体には影響はありません。
しかしながら、神経症状が認定されると、逸失利益を請求しやすくなると考えられるので、軽視すべきではありません。
実際、本判決も、判決理由の中で、傷痕につっぱり感やしびれがあることに着目していますし、仮に、外貌醜状での逸失利益を否定されたとしても、神経症状の点で逸失利益が認定される可能性があります。
後遺障害の申請にあたっても、単に等級の数字にとらわれるのではなく、きちんと、将来の損害賠償を見込んだ上での申請をすべきといえます。