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アウル東京法律事務所に所属する弁護士等のブログです。交通事故に関することや事務所全般のお知らせ等があります。

2016.05.06交通事故判例【交通事故】なぜ、死んだ人によって死亡慰謝料は異なってくるのか


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死亡慰謝料の基準


以前、赤い本の死亡慰謝料基準が改定されたことをふれましたが、交通事故による死亡慰謝料の基準は以下のとおりになります(赤い本平成28年版)。

・一家の支柱:2800万円

・母親または配偶者:2500万円

・その他:2000万円~2500万円

このように、慰謝料の金額は死亡した人の属性によって金額も変動する傾向にあります。これは何故か、というのが今回の記事です。


慰謝料ってなに?


「慰謝料」は本来法律用語ですが、テレビなんかでもとくに解説がないまま使われてますよね。

一番メジャーなのが離婚慰謝料でしょうか。

慰謝料は離婚や浮気の場面だけでなく、交通事故の分野でもよく登場しますし、非常に重要です。

そもそも、日本の法律では、誰かが誰かに対して損害を与えた場合、与えてしまった損害を賠償しなければいけないことになっています(本当は故意とか過失とか違法性などの議論もありますがこのへんは飛ばします)。

ただ、与えた損害以上の賠償をする必要はありません(遅延損害金などの話はとばします)。

たとえば不注意で誰かの持ち物を壊してしまった場合、その物をお金に換算して弁償する必要がありますが、壊してしまったからといってその物の価値以上のお金を支払う必要はありません。

1000円の物を壊してしまったら1000円を支払うべきであって、たとえば故意で壊した場合には制裁金として50%上乗せしなければいけないなんてルールもありません。

アメリカの一部の州では、懲罰的損害賠償という制度があって、その行為が強い非難を受ける行為であるような場合には、被害者が現実に被った損害以上の損害賠償を、いわば制裁として命じられることがあります。ただ、この制度は日本ではとられていません。

日本の法律では簡単にいうと、

加害されなかった場合の財産状態-加害された後の財産状態=損害賠償金額

とされています。

このように解説すると、慰謝料って心の問題だから日本の法律だと損害賠償する必要がないんじゃないの、と思われるかもしれません。

しかしそうではありません。

実際に何かを壊されたりして被った損害だけが損害ではなく、精神的苦痛を被ったことも損害として認められているのです。

お金をもらったからといって精神的苦痛はなかったことにはなりませんが、慰謝料は、お金をもらうことによって精神的苦痛をやわらげ、ダメージを回復させる機能を持っているのです。


交通事故で死んだ人によって慰謝料の金額が変わってくるのはなぜ?


こう解説すると、一家の支柱だろうと、専業主婦だろうとお年寄りだろうと、死亡するような交通事故によって被った精神的苦痛の程度は変わらないんじゃないの、誰が死んだかによって慰謝料が変化するのはおかしいんじゃないの、命の価値に優劣はつけられないんじゃないの、と思われるかもしれません。

たしかにそれは正しい指摘です。裁判所も「一家の支柱が死亡したからすごくかわいそう慰謝料2800万円、死亡したのはお年寄りだから慰謝料2000万円」などと紋切り型の判断をしているわけではなく、個別事情に応じて様々な慰謝料金額を認定しています。

死亡慰謝料の基準はあくまでも目安にすぎないことに注意が必要です。

死亡慰謝料の金額を被害者の属性に応じて分けたのは、家族構成のイメージを「老夫婦、働き盛りの夫(一家の支柱)、主婦の妻(母親、配偶者)、子ども」とし、それぞれが死亡した場合に残された家族や家計への影響を考えたからです。いわば、慰謝料の補完性の観点から差を設けるとの考えを背景として成立したものなのです(赤い本平成28年版下巻93頁参照)。

このように、命の価値に差があるわけではありませんが、残された家族や家計への影響というのは慰謝料を算定するにあたって重要になり得ます。

慰謝料を立証するにあたっては、単純に誰々が死亡したから慰謝料はいくらとするのではなく、死亡状況の他、故人の家庭内での役割や喪ったことによる残された家族の悲しみなど個別具体的な事情をきちんと訴え、裁判官にもその悲しみを理解してもらうのが重要でしょう。


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