まとめると
・サーモグラフィーは、痛みを証明するにあたって、単体では証明力が低くとも、他の証拠と組み合わさることで証明力を発揮すると考えられる(補充的効果)
・心因的影響による痛みの場合には、サーモグラフィーの結果に異常はない
今回の記事のソース
今回の記事では、東京地判平成8年1月23日(交通民集29巻1号79頁)の判例をもとに解説しています。
気になる方は、交通民集をご覧ください。
事案の概要
今回のケースは、交通事故のため、左臀部挫傷等と診断された被害者が、左臀部に痛みが残っていたため、後遺障害の申請をしたところ、自賠責調査事務所は、後遺障害には該当しない(非該当)と判断したものの、被害者は、これは後遺障害等級でいう12級に該当する、等と主張して提訴したケースです。
左臀部の疼痛(痛み)の医学的証拠としては、主に、
(1)MRIで左臀部の筋委縮が認められていること
(2)サーモグラフィーの結果、右臀部より体温が二度低くなっていること
があげられています。
これに対し、被告は、サーモグラフィーでは、温度差が、交通事故によるケガの影響なのか否かはわからないとして争いました。
裁判所の判断
裁判所はこれについて、
(1)MRI画像上、左臀部の筋肉が、右に比してやせてかたくなっていること
(2)サーモグラフィーの結果より、痛みが原因となって温度が低くなっていること
を認定した上で、後遺障害等級の12級に該当する、と判断しました。
(3)被害者を診断した医師のうち、心因性の影響を疑っている医師もいましたが、心因性の痛みの場合には、サーモグラフィーに異常は生じないので、これは誤診であるとしました(自賠責の非該当という認定は、この医師の誤診を重視し、しかも、臀部のMRI画像を調査しなかったためである、としました)。
サーモグラフィーだけで12級が認定されたのか
今回、裁判所は後遺障害等級は12級に相当すると判断し、その理由の一つとして、サーモグラフィーをあげています。
では、裁判所は、サーモグラフィーの結果のみをもって12級に相当すると判断したのでしょうか。
仮に、MRI画像がなかった場合でも、12級が相当という判断になったのでしょうか。
それは難しいでしょう。
これは、裁判所がサーモグラフィーの評価について、以下のように認定しているためです。
『痛みがある場合、当該部位に温度異常があるということができても、その逆の異常温度分布の存在があれば痛みがあるとは限らない』
つまり、サーモグラフィーの異常所見のみでは、痛みがあるとは限らないと認定しています。
サーモグラフィー単体の証明力は低くても、他とあわさることで、補充的効果を発揮する
では、その逆で、MRI画像のみしかなく、サーモグラフィーがない場合にはどのような結果になったでしょうか。
これは、判決理由のみではなんとも言えないところですが、サーモグラフィーの評価に関する文量からすると、サーモグラフィーについても重視しているのではないかと考えられます。
このように、サーモグラフィーの結果は、それ単体では証明力が低くとも、MRI画像のような他の証拠を補強する効果があるのではないか、と考えられます。
なお、本判決は、サーモグラフィーの意義に関しても認定しています。
これも興味深いので、次回はこの点にふれていきます。