まとめると
・サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判定できるメリットがあるにとどまるので、医学的に証明しうるものではない、とした判例がある。
・もっとも、MRI等の画像所見において、明確な異常が確認できなかったケースであり、サーモグラフィーが全く無意味というわけではない。
・MRI等他の証拠と組み合わさることで、効果を発揮することがあるのではないかと考えられる。
今回の記事のソース
今回の記事は、東京地判平成15年1月28日・交通民集36巻1号152頁をもとに解説しています。
概要
自賠責の後遺障害等級認定の段階では、本件は、非該当とされました。
頚部MRIで、C5/6に椎間板ヘルニアが確認されたものの、臨床医のほうで、『頚部MRI検査にて、C5/6間ほぼ中央部に軽度の椎間板ヘルニアが認められます』とされ、
腰部MRIでは、『腰部MRI検査は異常みられません。』とされたり、『軽度脊柱症的変性、外傷性のヘルニアはない』とされたためか、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないと認定されました。
このほか、サーモグラフィーの異常が確認されているので、被害者側はサーモグラフィーをもって、後遺障害の残存が証明されていると主張しましたが、裁判所はこの主張を容れませんでした。
サーモグラフィーは重要なポイントとなったか
今回の判決では、裁判所は後遺障害の等級上、14級に相当すると判示しましたが、これはサーモグラフィーが認定のポイントとなったのでしょうか。
残念ながら、そうではないでしょう。
裁判所は、交通事故の被害者が『受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、主治医であるC医師作成の後遺障害診断書があること及び前記認定の反訴原告の受傷時の状態や治療の経過などを総合』して14級に該当すると判示していますが、その理由中でサーモグラフィーについてはふれていません。
しかも、『サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判定できるメリットがあるにとどま』るとして、あまり積極的な評価はしていないようです。
今回のケースでは、サーモグラフィーがなくとも、14級の認定された可能性は十分あったのではないでしょうか。
このように、このブログでも何度か取り上げてきましたが、サーモグラフィー単体では、やはり証明力は低いと言わざるを得ないでしょう。
ただし、サーモグラフィー単体での証明力は低くとも、MRI等他の証拠とあわさることで、証明力を発揮すると考えられるので、他の医学的証拠如何によっては、やはり重要な立証資料になり得ると考えられます。
他に注目しうるポイント
今回紹介した判例では、神経症状で後遺障害等級12級が認定されるための要素として、CTやMRIのような画像所見を重視しています。
『精神・神経障害が、CT、MRIにより医学的に証明しえた場合に初めて認定される』とまで書いています。
他の判示部分では、CT、MRI『などの検査によって』と判示していますので、CTやMRIの検査結果に異常がなければ、12級とは認定しない、という意味まではないでしょうが、画像所見を重視していることはうかがえます。
他の裁判例を見渡しても、頚椎捻挫等で12級が認定されているケースでは、MRI等の画像所見で異常が確認されている例が多いことからしても、やはり、MRI等の画像は重要と言えるでしょう。
頚椎捻挫や腰椎捻挫の場合には、MRIを撮影することに消極的な医師もいらっしゃるかもしれませんが、異常が確認でそうなケースであれば、治療方針にあまり影響はなくとも、後々の立証に備え、撮影しておいたほうが良いのではないでしょうか。