事例
判例(千葉地判平成25年6月5日・自保ジャーナル1908号159頁)の紹介です。
被害者の方は、平成22年9月18日、給油の順番待ちをしていたところ、交差点を左折した加害車両の左側面後部が被害車両の後部右端に衝突したという事案です。
被害者は、これにより、頚椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性頚椎椎間板ヘルニアと診断されました。
ただし、被害者の方は、これに先立つ平成22年2月24日、頚椎椎間板ヘルニアによる頚椎症と診断されています(つまり、事故前に既にヘルニアがあったという事案)。
被害者の方は、その後計70日間整形外科に、計46日間整骨院に通院し、平成23年4月19日に症状固定となり、自賠責保険の等級認定では、14級9号の後遺障害に該当するとされました。
前提知識
交通事故による後遺障害の等級認定は、一般的に、まずは、自賠責保険のほうで行われます。
裁判所は、自賠責の認定を重視する傾向にありますが、これに拘束されるものではありません。
なお、むち打ちで認定される後遺障害等級としては、一般的に、12級か14級となるとが考えられます。
裁判所の判断
裁判所は、証拠から、これは本来、12級12号に該当するべきものと判断しました(ちなみに、原告は14級9号を前提に主張しているという特殊な事例ではあります)。
裁判所が12級に相当すると判断した理由は以下のとおりです(要約)。
(1)交通事故の前の、平成22年2月24日には、C3/4、C4/5、C5/6、C6/7にヘルニアが認められているが、交通事故の後に撮影したMRI画像と比べると、C4/5、C5/6のヘルニアが悪化していると認められること
(2)平成22年2月24日には、右上肢に激痛を感じて病院に行ったものの、痛みどめと湿布薬を処方され、まもなく痛みはおさまり、その後、本件交通事故があるまで通院していなかったこと
(3)交通事故後は、頸部痛、めまい、吐き気、右腕のしびれ、頭痛、握力低下などの症状が出たこと
(4)以上によれば、被害者の方には、経年性の頚椎椎間板ヘルニアが以前からあったものの、それによって生活や労働に支障が生じていたのではなく、今回の交通事故のため、ヘルニアが悪化し、脊髄症が発症したものといえる。
(5)加害者側は、本件交通事故による衝撃が軽微であることを主張するし、確かに、追突事故に比べて運動エネルギーが小さいものと認められる。しかし、追突事故であれば、ヘッドレストによる衝撃の緩和が期待できるが、今回の事故では、左後方から右前方へと斜めに力が加わり、頭部や頚部が、ヘッドレストからそれる形になってしまうので、後遺症が残らないような軽微な事故であるとはいえない。
感想
裁判所は、12級と14級の分水嶺について明言していませんので、どの部分を重視しているかは不明確です。
ただ、他に医学的証拠が挙げられていないことを考慮すると、やはり、MRI検査の結果が重視されているのではないかと考えられるところです。
MRIで明確に頚椎の椎間板ヘルニアが見つかり、ヘルニアが生じている神経根に対応する部位に、神経根症状が生じている場合には、最初から14級と諦めずに、12級が相当という主張をしていくべきでしょう。
もっとも、裁判所が自賠責の等級認定を重視する傾向にあることは変わりませんので、訴訟の前に、まずは、異議申立てや審査請求をして覆すように努めるべきでしょう。