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アウル東京法律事務所でお受けした交通事故事件の解決事例や、交通事故に関する計算例・裁判例を紹介します。

計算例・裁判例【むち打ち】治療費は認められなかったが、休業損害約60万円と通院慰謝料100万円が認められた事例


事例


判例(京都地判平成26年1月14日・自保ジャーナル1920号88頁)の紹介です。

本件で、被害者の方は、平成22年7月19日、交通事故にあい、外傷性頸部症候群・両肩関節周囲炎・バレー・リュー症候群と診断されました(いわゆる「むち打ち」)。

その後、被害者の方は、平成22年7月20日から平成23年7月1日まで整形外科に通院しました(実通院日数226日)し、治療費は、計134万7028円にのぼりました(なお、その後も、国保を使って通院)。

これに対して、被告(加害者側)は、整形外科での治療は、不合理であるとして、この治療費について争いました。

なお、後遺症に関しては、原告は、後遺症慰謝料等を請求していませんので、争いになってはいません。


新宿パークタワーに設置されたオブジェの写真


裁判所の判断


裁判所は、本件について、以下のように判断しました。


両肩関節周囲炎の治療費

両肩関節周囲炎とは、いわゆる五十肩のことです。

両肩関節周囲炎は、何か明らかな原因がないのに、症状があらわれる場合につけられる病名であり、交通事故という明らかな原因がある場合には、両肩関節周囲炎と診断されるのは不合理であると裁判所はしました。

また、「肩の疼痛と運動障害」という記載は、診療録(カルテ)上、事故直後の平成22年7月22日にはなく、約1週間後の平成22年7月30日になってあらわれていることを考慮し、両肩関節周囲炎を治療するための治療費は、加害者の負担にはしない、と判断しました。


バレー・リュー症候群の治療費

バレー・リュー症候群によるものと思われる、交感神経症状がカルテ上あらわれたのは、事故後1年以上経過した平成23年11月8日になってからであること、そもそも、バレー・リュー症候群であった場合には、星状神経節のブロック注射が中心であるところ、医師は、星状神経節のブロック注射を行わなかったことから、不合理であるとしました。

そして、このような不合理な治療の治療費は、加害者の負担にはしないと判断しました。


治療費は認めない

このように、被害者の方は、合理的説明ができない不合理な治療を受けただけとして、そもそも、治療費については、損害賠償が認められませんでした。


休業損害60万5395円

しかしながら、裁判所は、このように、治療は不合理なものの、被害者の方の症状は詐病とはいえないとして、休業損害を認めました。

被害者の方は家事従事者ですので、休業損害を算定する際の基礎収入は、平均賃金センサス(345万9400円)によることになりそうですに思えます。

しかしながら、被害者の方は、父と同居しており、父が寝たきりになるまでは家事をしていたとして、家事を分担できる者がいたと認定。

そのため、基礎収入を、平均賃金センサスの7割の242万1580円と認定しました。

そして、休業期間を半年間、家事に影響が出た割合を50%として、休業損害は60万5395円と認定しました。


(計算式)

242万1,580円/年×1/2×50%=60万5,395円


通院慰謝料100万円

裁判所は、合理的説明ができない治療により、難治長期化したことなどを考慮して、通院慰謝料は100万円としました。


判決に対する疑問


本判決は、治療費をまったく認めませんでしたが、これには2つの疑問があります。


治療方法自体は一般的ではないか

たしかに、医師の傷病名の判断は疑問の余地もあるかもしれません。

しかしながら、そもそも、むち打ち損傷について、初期に病態を確定的に診断する方法は存在せず(訴えや検査をもとに病態を推測していくと考えられます)、その場合には、本件で行われたように、消炎鎮痛剤を処方するなど、対症療法を行うことは不合理とはいえないのではないか、という疑問があります。

(バレー・リュー症候群とした医師の診断は不合理であっても、行われた治療(薬物療法)は、むち打ち損傷に対するものとしては、一般的ではないかと思われます。また、バレー・リュー症候群と診断した医師の判断は間違いであれば、星状神経節ブロック注射も必要ないのではないかと考えられます

もっとも、裁判所は、当事者の主張をもとに判断しますので、この点については、主張・立証が足りなかったのでしょうか。


医療機関の間違いを被害者の責任にする疑問

さらに大きな疑問としては、そもそも、患者は、何が適切な治療かわからないということがあげられます。

患者は、「首が痛い」「吐き気がする」などと主張して、医師が原因を推測し、治療法を判断するのが一般的です。

ある傷病名をつけて医師が治療を行ったが、結果的にその傷病名が正しくなかったとしても、それは医療機関側の責任であり、患者(被害者)の責任ではありません。

それにもかかわらず、治療費を減額することには大きな疑問があります(福岡高判平成19年2月13日・判タ1233号141頁も、同じように、医師が不合理な治療を行ったとされた事例ですが、上記のような理由をあげて、治療費を安易に減額することは相当ではないとしています)。

本件は確定しているようですが、治療費については、上訴により争う余地はあったのではないでしょうか。


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