事例
判例(横浜地判平成26年2月28日自保ジャーナル1924号146頁)の事案です。
夫が専業主『夫』として、家事をしていた場合の休業損害の計算例です。
被害者の方は、平成23年5月20日、横断歩道を、自転車を押して歩いていたところ、側道を直進していた自動車に衝突されたという事案です。
被害者の方は、交通事故のため、頚椎捻挫及び腰部捻挫のケガをしました。
その後、整形外科に通院し、平成24年1月7日に症状固定となりました(症状固定までの期間は233日間。実通院日数143日)。
本件では、頸部痛等が残存したため、後遺障害等級14級が認定されています。
本件で、被害者(代理人弁護士)は、休業損害につき、基礎収入を9478円、休業日数は実通院日数である143日と主張し、135万5354円が相当と主張しました。
(計算式)9,478円×143日=135万5354円
主婦休業損害の前提知識(基礎収入)
休業損害は、基礎収入×休業日数で計算されます。
専業主婦のような家事従事者は、現実に収入を得てはいませんが、家事という労働をしていることに変わりありません。
そこで、女性の平均賃金をもとにして、基礎収入を決められるのが一般的です。
この裁判例で用いられた、1日9478円という数字は、平成22年の女性の平均賃金センサスをもとにして決められた数字です。
なお、保険会社は1日5700円と主張してくることが多いでしょうが、これは自賠責基準の数字です。
主婦休業損害の前提知識(休業期間)
では、休業日数を何日にするかというと、これはケースバイケースと言わざるを得ません。
むち打ちのケースで、さすがに、症状固定までの全期間を休業期間とするのはいささか難しいと言わざるを得ません。
なぜなら、たしかに、交通事故によるケガのため、家事という仕事を休まざるをえなくなっているでしょうが、治療期間中の233日間も、まったく、一切、家事ができないかというと、そういうことはないでしょう。
むち打ちのようなケースでは、交通事故によるケガのため、はじめのうちはほとんど家事ができなくても、じょじょに回復していくので、時間が経つにつれ、家事もある程度できるようになるのが通常ではないでしょうか。
本件で、被害者(代理人)は、実通院日数を休業期間として主張しています。今回は、裁判所に認められませんでしたが、これも十分にあり得る主張でしょう。
休業損害88万3256円
本件で、裁判所は、基礎収入を1日9477円とした上で(小数点以下を切捨て)、休業期間中の平均的な労働能力喪失率を4割と認定しました。
つまりは、交通事故のケガによる痛みなどは、じょじょに回復していくものであることを前提とした上で、症状固定までの233日間中、平均すると、おおむね4割程度は家事ができなかったと認定しました。
結果、休業損害は88万3256円とされました。
(計算式)日額9,477円×233×0.4=88万3256円