事例
判例(大阪地判平成25年11月21日・自保ジャーナル1918号43頁)の紹介です。
本件では、全面的な争いになっているので、様々な判示があります(接骨院の施術費のうち、7割が損害として認められた等)が、ここでは症状固定の問題についてとりあげます。
被害者の方の入通院状況は以下のとおりです。
(1)平成22年9月28日に交通事故により受傷。頚椎捻挫及び背部打撲の受傷を負い、病院に行く。
(2)平成22年9月29日から同年10月8日まで入院(10日間)
(3)平成22年10月9日から平成23年8月22日まで通院(実通院日数10日)
(4)平成22年10月9日から平成23年6月15日まで接骨院に通院(実通院日数157日)
これに対して、被告(加害者側)は、様々な点について反論していますが、症状固定日について、長くても3か月程度(平成22年12月末日まで)と主張しています。その理由は、以下のとおりです。
(1)原告の症状は、レントゲン上の異常所見等の他覚的所見の認められない捻挫・打撲にすぎないところ、他覚的所見の伴わないむちうち症は、一般的に、長くても、受傷後2ないし3ヶ月で軽快する旨の医学的知見があること
(2)医師が、平成22年11月17日、症状固定見込みが平成22年12月末日ころと診断したこと
(3)本件の事故態様は、軽微な追突事故であり、車両の損傷も軽微であること
前提知識
交通事故のため、むち打ちになった場合、加害者に対して治療費を請求できます。
ただ、この治療費は、いつまでも支払われるというわけではありません。
症状固定といって、医師が治療をしていって、これ以上、治療による改善が見込めないと判断された時期までしか支払われません。
具体的な症状固定日はケースバイケースですが、概ね3~6か月程度のケースが多いでしょうか(弁護士の経験上)。
保険会社は、症状固定日について争う場合は、3か月程度を主張してくるケースが多いように思われます。
今回のケースでも、加害者は、症状固定が3か月程度であるとして、争ってきました。
裁判所の判断
裁判所は、明確に症状固定日がいつとは明言してはいませんが、事故から概ね1年経過した平成23年8月22日を症状固定日としているように思われます(病院での通院治療費は全額認めていますし、接骨院での施術費は減額しているものの、全期間を対象に算定しています)。
判決理由としては、具体的な通院状況と治療経過を重視した上で、以下のとおり判示して、被告の主張を排斥しています。
(1)3か月程度で症状固定となるという医学的知見について
裁判所は、症状の個人差があることを当然留保した上で、一般的な治癒の過程を述べたにとどまると解されるので、証拠として採用できないとしました。
つまりは、このような主張は単なる一般論であり、症状固定日は個人差があるという点を重視しているものと思われます。
(2)医師が症状固定見込みを平成22年12月末日ころと書いたことについて
裁判所は、一時点における診断の見込みにとどまるので、証拠として採用できないとしました。
(3)事故態様が軽微であるとの主張について
通院の事実を覆すような事実でではない、としました。
感想
本判決は、症状固定日について、具体的な通院状況や治療経過を重視した上で判断している事例です。
保険会社側は、症状固定が3か月程度だとする医学的な知見を提示することがままありますが、一般論に過ぎないことが多いでしょう。
症状固定日は、ケースバイケースであり、被害者の症状も見ない、このような紋切り型の一般論で大きく左右されるべきではありません。