事例
判例(神戸地判平成13年9月5日・交通民集34巻5号1231頁)の紹介です。
本件では、7割もの素因減額を認めた点でも注目に値しますが、ここでは、因果関係について主にふれていきます。
本件は駐車場内での事故です。被害車両が停車していたところ、バックしてきた加害車両に衝突されたという事故態様でした。
この衝撃の程度について、被告側(加害者側)の提出した鑑定書によれば、加害車両の衝突速度は、時速3.4キロメートル、被害車両の速度変化は、時速1.9キロメートル、被害車両に生じた最大加速度は0.53Gで、これは自動車や航空機に乗車・搭乗中に体験するレベルで、運動競技の体当たりや遊園地の乗り物で体験するよりはるかに軽度とされていました。
被害者の方は、この事故により、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、腰椎椎間板ヘルニア、左肩打撲と診断され、約7か月間通院しましたが、腰部から左臀部にかけての疼痛と、疼痛による運動制限が遺りました。
なお、自賠責は、理由は不明ですが、本件について後遺障害等級は非該当と判断しています。
本件の争点
本件では、被告側(加害者側)は、事故と受傷との因果関係について争いました。
簡単に解説すると、事故による衝撃は極めて軽微で、この程度の事故でケガをしたとは考えられない。腰椎の椎間板ヘルニアが認められていても、それは経年性の変化によるものに過ぎない、として争ったのです。
裁判所の判断
裁判所は、因果関係を認め、後遺症は後遺障害等級12級に相当すると判断しました。理由は以下のとおりです。
たしかに、本件事故は、極めて軽微な衝突事故で、その衝撃で首や腰に傷害を負うのは不自然といえなくもない。
しかしながら、
・椎間板の退行変性があれば、本件事故程度の軽微な衝撃であっても腰椎椎間板ヘルニアの症状を誘発する原因となり得ること
・被害者には、事故当時すでに退行変性があったから、本件事故が一因となって腰椎椎間板ヘルニアが生じたと考えても不自然ではない
・被害者が、本件事故以前に首や腰に不具合があったとか、病院に通院していたという事情は見当たらない
・その上、被害者は、事故の3日後くらいから、腰痛が生じたと述べている
以上のことから、裁判所は、事故と受傷との間に因果関係を認めました。
ただし、冒頭でも書いたとおり、本件では、裁判所は7割という大幅な素因減額をしており、この点にも注意が必要です。