【ご質問】
交通事故被害者が病院までタクシーで通院した場合、このタクシー料金は損害として認められますか?
【ご回答】
病院までの通院交通費は損害賠償の対象になりますが、タクシーは、タクシー利用が相当と認められる場合に限ります。
通院交通費の賠償は、原則として、電車やバス
交通事故の被害者がケガをした場合、病院に通院して治療を受けることになるでしょう。
病院が徒歩圏内にあれば、歩いていけば良いのですが、病院が自宅の近くにあるとは限りません。
離れた地域にあれば、電車やバスに乗って通院することになるでしょう。
このような通院交通費は、損害賠償請求の対象になりえます。
しかしながら、どのような交通手段を用いても、交通費がもらえるというわけではありません。
極端な例でいうと、自宅から5km先の病院に通うため、いったん、成田空港からロンドンに行って、ロンドンから日本に戻ってきて病院に行っても、日本・ロンドン間の往復の航空券代は、損害賠償請求できません。
通院交通費として請求できるのは、あくまでも、相当な交通手段に限ります。
一般的には、電車やバスのような公共交通機関での通院が相当な交通手段となり、タクシーの利用は不相当とされます(したがって、公共交通機関の交通費のみが損害賠償の対象となり、実際にタクシーを用いて通院しても、相手に請求できず、自腹になる)。
タクシー利用が相当と認められる場合もある
もっとも、いかなる場合でも、電車やバスのような公共交通機関を用いなければいけない、というわけではありません。
タクシーを利用しないと病院に通院できないような場所に居住している人や、ケガの程度によっては、電車やバスでの通院が難しいという場合もあるでしょう。
このように、タクシー利用が相当と認められることもありますので、いくつか例をあげていきます。
地理的要因からタクシー利用が相当と認められた裁判例
自宅から駅まで徒歩1時間の距離にある被害者が、病院への通院にタクシーを利用した事例(公共交通機関を利用するとなると、1時間歩く必要がある)。タクシー代計約235万円が損害として認められました(大阪地判平成7年3月22日・交通民集28巻2号458頁)。
症状等からタクシー利用が相当と認められた裁判例
交通事故のため、対人恐怖症や外出困難いった精神症状を患った女性が、通院のためタクシーを利用した事例では、タクシー代計約22万円が損害として認められました(神戸地判平成13年12月14日・交通民集34巻6号1616頁)。
交通事故のため、右大腿骨解放骨折、右脛骨高原骨折というケガを負った女性が、通院のためタクシーを利用した事例では、タクシー利用料として、計約270万円が損害として認められました(東京地判平成14年3月22日・交通民集35巻2号385頁)。
タクシー利用料についての注意サイン
交通事故の被害者は、1回病院に通えばそれで治療終了という方はそれほど多くありません。
数十回~場合によっては、100回以上病院に通院するという方もいらっしゃるでしょう。
すると、タクシー利用料金も高額化していく可能性がありますので、タクシー利用料が当然、認められるものと思っていると危険です。
とくに、加害者の保険会社が「タクシーは認めません」などと言った場合は要注意です。これは、つまり、タクシー代を請求されても、争いますよ、という意味に捉えても良いでしょう。
ただし、保険会社がタクシー利用料を支払ってくれていても、安心しすぎてはいけません。
後になって、「一時的に支払っていただけなので、タクシー利用料の返還を請求します」とか「過失相殺を主張します」と言われることがあります。
通院のためにタクシーを頻繁に利用する、という方は、できるだけ早めに弁護士に相談して、リスク等を検討されることをお勧めします。
なお、アウル東京法律事務所では、交通事故被害者の方からのご相談は無料で承っておりますので、お気軽にご相談ください。