【ご質問】
交通事故のため、有給休暇を取得しました。有給を取得した分は補償されますか?
【ご回答】
交通事故のため、有給休暇を取得した場合、有給分も休業損害として請求できると考えられます。
問題の所在
交通事故の被害にあった方のうち、静養もしくは通院のため、有給休暇を使用される方がいます。
この場合、交通事故が原因となって会社を休んでいるので、休業損害を請求できそうです。
しかしながら、有給休暇を利用した場合には、会社を休んでも、その分のお給料は減らされないのが通常です。
つまりは、会社を休んではいるが、給料はきちんと通常通り支払われているので、損害は発生していないのではないかという疑念が生じます。
有給休暇を取得した場合に、休業損害が発生しているかについては、過去に裁判で争われたこともあります。
有給休暇取得権は財産的価値があると考えられる
たしかに、有給の取得によって、現実の収入は減少しないでしょう。
しかしながら、有給休暇は労働者が有する権利です。
その日1日労働をしなくても、お金がもらえるという権利ですので、財産的価値があるといえます。
交通事故(不法行為)のため、有給休暇を取得せざるを得なかったということは、このような、財産的価値のある有給休暇取得権を侵害しているものと考えられます。
裁判例の大勢も有給休暇利用分を休業損害として認めている
有給休暇を利用した場合には、それを休業損害として計算するというのは決して特異な考え方ではありません。
「有給休暇利用分は休業損害として評価されるとするのが裁判例の大勢」(北河隆之『交通事故損害賠償法』弘文堂・平成23年4月15日・122頁)です。
たとえば、神戸地判昭和63年5月27日(交通民集21巻3号539頁)や東京地判平成6年10月7日(交通民集27巻5号1388頁)なども有給利用分を休業損害として認めています。
有給休暇取得時期等には注意
有給休暇を利用した場合に、その分を休業損害として請求しうるという一般論は上述のとおりですが、具体的事例を巡ってはこれが争われることもあります。
たとえば、交通事故の発生からかなり期間が経過しているケースが考えられます。
この場合には、果たして交通事故のため取得せざるを得なかったといえるのか問題になる可能性があります。
つまりは、これは、交通事故とは関係なくて、自分のリフレッシュのために取得した有給休暇ではないかとの反論を許す可能性があります。とくに、病院に通院していないような場合には、この反論がかなり強くなるでしょう。
そのため、後々の立証をも考えた時には、有給休暇取得日には、きちんと病院に通院しておくことが重要ではないかと考えられます。