【ご質問】
外貌醜状で後遺障害として、等級認定がされました。
外貌醜状では、逸失利益が認められないと聞いたのですが、本当ですか?
【ご回答】
外貌醜状でも、逸失利益が認められる可能性はあります。
保険会社は、なぜ逸失利益を否定するのか
外貌醜状で後遺障害の等級認定がされた場合、保険会社側は逸失利益について全面的に争ってくることがあります。
逸失利益とは、後遺症が残ったことで、本来得られたであろう利益を失ったことに対する損害賠償です。
たとえば、交通事故で両目が見えなくなったとします。
残酷な話ですが、盲目となってしまうと、現在の勤務先を解雇されて収入を失ったり、再就職しようにも、就ける職種が限られてくるでしょう。
このような場合には、逸失利益があるということについては、大半の方が納得されるでしょう。
しかしながら、外貌醜状の場合、手や足を動かすという身体の動作や、物を見たり、音を聞いたりする五感の作用には、影響がないわけです。
そうすると、保険会社側としては、「働くことには影響がないんだから、逸失利益なんて存在しないはずだ」と全面的に争ってくることがあります。
保険会社のこのような強気の姿勢の裏付けとしては、過去の判例があるのでしょう。
過去の判例では、外貌醜状の逸失利益性を否定したものが多くありました(とくに男性について、逸失利益を否定する判例が多かったようです)。
外貌醜状だから、逸失利益が存在しないとは限らない
加害者側は、このような過去の判例などをもとに、外貌醜状なんだから、逸失利益など存在しない、と言ってくるでしょうが、そう単純な問題でもありません。
外貌醜状でも、労働能力に直接的な影響を及ぼす場合があります。
たとえば、それまでは営業職だったのに、醜状痕を理由に別の部署に移されるなど、配置転換を受けた場合には、労働能力に直接的な影響があったといえるでしょう。
また、外貌醜状から、職業選択の幅が狭まったということを立証できれば、この場合にも、労働能力に直接的な影響があるといえるでしょう(これらについて、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『交通事故による損害賠償諸問題Ⅲ 損害賠償に関する講演録』53頁・山崎秀尚「醜状痕を理由とする後遺障害慰謝料額及び醜状痕が残った男性被害者の評価」参照)。
このほか、対人関係の円滑性という観点も見逃せません。
企業が人を採用する際に、コミニケーション能力を重視していることからも分かるように、働く上で、円滑な意思疎通や円満な対人関係の構築は非常に重要です。
外貌醜状があった場合には、初対面の人に否定的な印象をもたれたり、醜状を気にして、対人関係の構築に消極的になってしまうのは十分考えられることです。
これらをもとに、逸失利益を請求していくことが考えられ、実際に、外貌醜状の事例で、逸失利益を認めた裁判例も多くあります。
加害者の保険会社等から、「外貌醜状では、逸失利益は認めません」といわれても、素直にひきさがるのではなく、弁護士への相談を検討されてはいかがでしょうか。
外貌醜状で逸失利益を認定した判例の紹介
・神戸地判平成25年11月28日(自保ジャーナル1916号17頁)
(本判決は、5センチメートル以上の線状痕のため後遺障害の等級認定がされた事案。労働能力喪失率として20%が認定された)