【ご質問】
示談をした後に、後遺症が出るんじゃないかと不安です。こういう場合は示談をしないでおくべきですか?
【ご回答】
いったん示談をしてしまうと、その後に追加で損害賠償請求をするのは困難です。
しかしながら、示談をした当時に予測できなかったような後遺症が発生してしまった場合には、示談の効力は、そこまで(予測できなかった後遺症まで)及んでいない、などと主張して、再度、損害賠償請求をしていくことも考えられますし、不安な場合には、示談書に留保条項をいれることも考えられます。
示談をする際には慎重にするべきですが、かといって、いつまでも放置しておくと時効の問題も生じますので、示談は、適切なタイミングで行うべきでしょう。
示談をしてしまうと、もう、その交通事故に関する損害賠償請求はできないのが一般的
交通事故の損害賠償請求に関して示談をする際には、示談書に清算条項という条文をいれるのが一般的です。
清算条項というのは、簡単に解説すると、今回の交通事故に関して、他に請求権があるようなものが残っていても、これ以上は請求しませんよ、というようなものです。
そのため、示談をした後になって、「あ、この損害を請求するのを忘れてた」と気づいても、もう請求できなくなるわけです。
したがって、示談をする際には、請求し忘れたものがないか、よく注意すべきです。
示談当時に予測できなかったような損害であれば、請求可能な場合も
この清算条項からすると、「示談をしたときに予測できないような後遺症が発生しても、その後遺症に関する損害賠償請求はできなくなってしまう」かに見えます(たいてい、全ての権利を放棄する、というような記載があるでしょう)。
加害者側もそのような主張をしてくる可能性が高いでしょう。
しかしながら、最高裁(最判昭和43年3月15日・民集22巻3号587頁)は、次のように判示しました。
「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に少額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべき」
「その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合、その損害についてまで、損害賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない」
※なお、この判例は、事故からわずか9日後に示談したケースです。
この最高裁判例は、清算条項の効力を限定することによって解決をはかったものと考えられますが、このほかに、錯誤無効の主張も考えられるでしょう。
このように、不測の後遺症等が発生した場合でも、争う余地は残されています。
不安な場合には、示談書にその旨明記してはいかがでしょうか
上記の判例の射程は、示談後に後遺症が発生したあらゆるケースに及ぶわけではありません。
たとえば、加害者側が、「その後遺症は、示談をした当時でも十分予測できたのではないか」などと争う余地はあります。
そのため、不安な場合には、示談書に「将来、後遺障害が発生した場合には、別途協議する」という条項をいれるなど、この点を明記してもおくことも考えられます。