【ご質問】
過失割合が0:100の事故(停車中の衝突事故等)で、労災保険を利用するメリットはありますか?
【ご回答】
特別支給金などがあるので、ご自身に過失がない事故でも、労災を利用するメリットはあります。
基本は、二重取りできない
通勤中や業務中の事故の場合、交通事故の被害者は、労災保険を利用して治療を受けることができる場合があります。
たとえば、治療費が100万円かかったと仮定すると、この治療費は交通事故の加害者に請求することもできますし、労災保険を使えば自己負担なく、治療を受けられます。
つまり、交通事故の被害者としては、
(1)自賠責や加害者(保険会社)から、治療費を支払ってもらう(自由診療)
(2)労災保険を利用して治療を受ける(保険診療)
のいずれかを選択することができます。
もっとも、労災保険を利用して、治療費を0円に抑え、加害者(保険会社)には、治療費として100万円を請求するということはできません(つまり、二重取りはできない)。
このほか、交通事故のため、会社を休まざるを得なくなり、給料を減らされた場合には、減額分の給料を加害者(保険会社)に請求できます。これを、休業損害といいます。
100万円分の休業損害が発生したとします。
休業損害を請求する前に、労災から、休業補償給付として、そのうち60万円を受け取ったとすると、請求できるのは残りの40万円だけになります。
このように、損害賠償請求をする前に、受け取ったお金の分だけ減額することを、損益相殺と言います。
休業特別支給金は、損益相殺の対象にならない
上述のように、休業損害として100万円を請求する際、労災からお金(休業補償給付)を受け取っていると、受け取った分だけ請求できる金額は減ります(損益相殺)。
このように説明すると、「なんだ、それだったら労災を利用するメリットなんてないじゃん。ただ、手間がかかるだけでしょ」と思われるでしょう。
しかしながら、実は、これには例外があるのです。
それが、労災の「休業特別支給金」というものです。
最高裁(最判平成8年2月23日・民集50巻2号249頁)は、特別支給金は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、損害を填補する性質を有するということはできない。したがって、特別支給金を損害額から控除することはできない、と判示しました。
つまり、休業特別支給金は、休業損害とは別にもらえるのです。
休業特別支給金って、具体的にいくらもらえるの?
では、休業特別支給金は、具体的にいくらになるのでしょうか。
答えは、平均賃金の2割です。
たとえば、休業損害が100万円だったとすると、労災を利用することで、その2割の20万円が加算される、というわけです(実際には、休業特別支給金は、休業損害と異なり、休業の4日目から支給されたりするので、少しずれた数字になりますが)。
休業特別支給金以外にも特別支給金がある
特別支給金は、休業特別支給金だけではありません。
後遺障害が残った場合に支給される障害特別支給金などがありますが、これらの特別支給金は、休業特別支給金と同様、損益相殺の対象にはなりません。
これらに加え、障害補償年金等の年金を受け取れる場合もメリットが大きいといえます。
障害補償年金等は、損益相殺の対象にはなるものの、損益相殺がされる期間が事故から3年までと限定されているので、事故から3年が経過した後は、きちんと年金を受け取ることができるのです。
このように、過失がない交通事故の案件でも、労災を利用するメリットがあるので、積極的に利用を検討されたほうが良いでしょう。