障害が残った部位に応じた後遺障害
脳の非器質性障害(交通事故に伴う後遺障害の解説)
1.脳の非器質性障害(うつ病、PTSDなど)とは何か
高次脳機能障害、脳損傷による身体性障害(麻痺等)、外傷性てんかんは、脳の器質的損傷による後遺障害です。
器質性障害とは、交通事故のため、脳細胞が傷ついたりするなど、身体の組織が変化することによって起こる異常のことです。
脳挫傷など、脳細胞が傷つけば、異常が起こる、というのはわかりやすいでしょう。
しかしながら、交通事故による後遺症の中には、こういった身体組織自体には変化がないが、精神状態が異常な状態になることもあります。たとえば、うつ病やPTSDなどがそうです。
このような、精神状態に異常を残す後遺症も、後遺障害として認定される可能性があります。
2.認定されうる後遺障害
9級10号:通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
12級相当:通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
14級相当:通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの
※後遺障害の等級認定がされた場合でも、後遺障害慰謝料などの損害賠償が適切にされているかご注意ください。
3.後遺障害認定の基準となる要素
このように、PTSDやうつ病などは、後遺障害として等級認定される可能性がありますが、多少の障害か軽微な障害といえるか、という基準はあまりにもあいまいすぎます。
そこで、以下のような
(1)精神症状が1つ以上あり、
(2)能力判断項目のうち、1つ以上に障害が認められる場合
に、はじめて等級認定されることとなります。
(1) 精神症状
a 抑うつ状態
b 不安の状態
c 意欲低下の状態
d 慢性化した幻覚・妄想性の状態
e 記憶又は知的能力の障害
f その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
※以上のうち、1つ以上の精神項目があることが必要
(2) 能力に関する判断項目
a 身辺日常生活
b 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
c 通勤・勤務時間の順守
d 普通に作業を持続すること
e 他人との意思伝達
f 対人関係・協調性
g 身辺の安全保持、危機の回避
h 困難・失敗への対応
※以上のうち、1つ以上の能力に障害が認められることが必要
4.仕事をしているか否かによって判断基準が異なる
後遺障害の認定に際しては、上で説明した、(1)精神症状と(2)能力判断項目をもとに、等級認定をしていくことになりますが、働いているか否か、働く意欲があるか否か、というのは非器質性の障害があるか否かを判断するうえで、重要な要素となります。
そのため、現に働いていたり、就職活動をしているなど、就労意欲がある者とそれ以外とで、判断方法も分けることになります。
現に就労している者または就労意欲のある者の判断方法
この場合には、(1)精神症状のいずれか1つ以上が認められる場合に、(2)8つの判断項目のそれぞれについて、助言・援助の必要の程度を基準に等級認定することとなります。
就労意欲の低下又は欠落により就労していない者の判断方法
この場合には、(2)aの身辺日常生活の支障の程度により判断することとなります。
※ある特定の職種であれば、働きたい、という人はこれに含まれません。どんな仕事もつきたくない、というような人が当てはまります。
5.等級に応じた判断
それでは、上記の判断要素を用いて、実際に、どの程度あれば何級が認定されるのか解説していきます。
(1) 9級10号に認定されるための要件
以下のaまたはbのいずれかにあてはまる場合に、9級10号と等級認定されます。
a 現に働いている人または就労意欲のある人の場合
(1)精神症状のいずれか1つ以上が認められ、
かつ、
(2)判断項目のうち、b~hのいずれか1つの能力が失われてる場合。または、(2)の判断項目のうち、4つ以上の能力について、しばしば助言・援助が必要と判断される障害を残している場合。
b 就労意欲が低下または欠落していて、働いていない人の場合
身辺日常生活について、時に助言・援助が必要な障害が残存している場合。
(2) 12級相当が認定されるための要件
a 現に働いている人または就労意欲のある人の場合
(1)精神症状のいずれか1つ以上が認められ、
かつ、
(2)の判断項目のうち、判断項目の4つ以上について、時に助言・援助が必要と判断される場合。
b 就労意欲が低下または欠落していて、働いていない人の場合
身辺日常生活を適切または概ねできている場合。
(3)14級相当が認定されるための要件
(1)精神症状のいずれか1つ以上が認められ、
かつ、
(2)判断項目の1つ以上について、時に助言・援助が必要とされる障害を残している場合
6.重い症状を残している場合
(2)判断項目のうち、身辺日常生活能力が失われていたり、それ以外の(2)判断項目のうち、2つ以上の能力が失われている場合には、重い症状を残しているといえます。
このような重い症状を残している場合には、一時的に、症状に大きな改善が認められない状態達しても、原則として、療養を継続します(非器質性精神障害については、症状が重篤でも、将来、大幅に改善する可能性が十分にあるためです)。
療養を継続して、十分な治療を行ってもなお、症状に改善の見込みがないと判断され、症状固定と認められるときに、障害等級を判断することになります(ただし、時効にならないように注意!)。
その場合には、障害の程度を踏まえて、上記のような判断要素にとらわれず、等級認定することとなります。