障害が残った部位に応じた後遺障害
脳の損傷による身体性機能障害(交通事故に伴う後遺障害の解説)
脳は、せき髄とともに中枢神経系をなし、感情や思考のほか、人間の神経活動において中心的な役割を担っています。
このように極めて重要な脳が、交通事故により損傷すると、身体に麻痺が生じることがあります。
麻痺の範囲や程度に応じて、後遺障害等級が認定されることとなります。
1.認定されうる後遺障害等級
1級1号(別表1):神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
(補足:生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要する場合)
2級1号(別表1):神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
(補足:生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時他人の介護を要する場合)
3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
(補足:生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、身体性機能障害のため、労務に服することができない場合)
5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができないもの
9級10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
(補足:通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残す場合)
2.脳損傷による身体性機能障害の等級判断基準
後遺障害の等級としては、以上のような枠組みが設けられていますが、これらは、麻痺の範囲と麻痺の程度、ならびに介護の有無及び程度により認定することとなります。
麻痺は、自己申告をもとに認定するのではなく、MRIやCT等の画像所見や身体的所見による裏づけが必要となるので注意が必要です。
3.麻痺の程度に関する解説
麻痺は、(1)高度の麻痺、(2)中等度の麻痺、(3)軽度の麻痺の3種類に分類して認定することになります。
以下、どのような場合に(1)高度、(2)中等度、(3)軽度と判断されるか解説していきます。
(1)高度の麻痺とは
麻痺が高度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作(上肢については物を持ち上げて移動させること、下肢については歩行や立位を意味します)ができないことをいいます。
具体的には、以下のような場合があてはまります。
(a)完全硬直またはこれに近い状態
(b)上肢においては、三大間接及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
(c)下肢においては、三大間接のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
(d)上肢においては、随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
(e)下肢においては、随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの
(2)中等度の麻痺とは
麻痺が中等度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作にかなり制限があることをいいます。
具体的には、以下のような場合があてはまります。
(a)障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
(b)障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
(3)軽度の麻痺とは
麻痺が軽度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢または下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれていることをいいます。
具体的には、以下のような場合があてはまります。
(a)障害を残した一上肢では、文字を書くことに困難を伴うもの
(b)日常生活は概ね独歩できるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で横転しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの
4.脳損傷による身体性機能障害の判断基準
以上に説明したような、麻痺の程度をもとに、等級認定が行われることとなります。
(1)1級1号(別表1)に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、1級1号(別表1)と認定されます。
(a)高度の四肢麻痺が認められるもの
(b)中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
(c)高度の片麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
※四肢麻痺とは、文字通り四肢(両腕及び両足)の麻痺を意味します。
※片麻痺とは、右半分左半分など、一方の側の上肢と下肢の麻痺を意味します。
(2)2級1号(別表1)に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、2級1号(別表1)と認定されます。
(a)高度の片麻痺が認められるもの
(b)中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
(3)3級3号に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、3級3号と認定されます。
中等度の四肢麻痺が認められるもの
※常時介護を要する場合は1級1号(別表1)、随時介護を要する場合には2級1号(別表1)となります。
(4)5級2号に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、5級2号と認定されます。
(a)軽度の四肢麻痺が認められるもの
(b)中等度の片麻痺が認められるもの
(c)高度の単麻痺が認められるもの
※単麻痺とは、上肢または下肢のいずれか一肢のみの麻痺を意味します。
(5)7級4号に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、7級4号と認定されます。
(a)軽度の片麻痺が認められるもの
(b)中等度の単麻痺が認められるもの
(6)9級10号に該当する身体性機能障害
以下の麻痺を残す場合に、9級10号と認定されます。
軽度の単麻痺が認められるもの
(7)12級13号に該当する身体性機能障害
麻痺のある四肢の運動障害(運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障)がほとんど認められない場合に認定される可能性があります。
また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
5.脳損傷による麻痺の特徴
麻痺は、せき髄損傷によって生じることもありますが、もちろん、脳損傷によっても生じます(せき髄損傷の解説ページもご覧ください)。
脳損傷による麻痺は、以下のような特徴があります。
(1)脳損傷の場合は、四肢麻痺、片麻痺、単麻痺は起こるが、通常は、対麻痺が起こらない。
※対麻痺とは、両脚の麻痺です。
(2)脳損傷の場合は、運動障害が生じた場合には、通常、運動障害が生じた範囲に感覚障害(その部分の感覚が失われたり、鈍くなること)が随伴する。