障害が残った部位に応じた後遺障害
上肢の機能障害(交通事故に伴う後遺障害の解説)
1.認定されうる後遺障害等級
1級4号:両上肢の用を全廃したもの
5級6号:1上肢の用を全廃したもの
6級6号:1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
8級6号:1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
2.上肢の3大関節とは
上肢の機能障害では、3大関節という概念が非常に重要となりますので、まずは、これについて説明します。
上肢の3大関節とは、(1)肩関節、(2)ひじ関節、(3)手関節のことをいいます。
3.上肢の用を廃したものとは
『両上肢の用を廃したもの』とされれば1級が、『1上肢の用を廃したもの』と認定されれば5級が認定されえます。
後遺障害等級認定でいう『上肢の用を廃したもの』とは、以下の場合をいいます。
すなわち、3大関節のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃した場合です。
上腕神経叢の完全麻痺もこれに含まれます。
4.関節の強直とは
先ほど、関節の強直と説明しましたが、関節の強直とは、関節が完全に動かなくなった完全強直だけではなく、完全強直に近い状態にある場合も含まれます。
具体的には、関節の可動域が、健康な側と比べて、10%程度以下に制限されている場合をいいます(原則)。
たとえば、肩関節の屈曲を例にみてみましょう。
肩関節の屈曲は、通常180度が正常です(人にもよりますが)。
この場合、180度の10%は、18度となりますが、10%程度以下とは、5度単位で切り上げることを意味しますので、切り上げ20%となります。
後遺症が残っている肩関節の屈曲が20度以下になっている場合には、肩関節の強直として扱われるでしょう。
また、関節の可動域が10度以下に制限されているような場合には、健康な側と比べるまでもなく、完全強直に近い状態に含まれます。
5.関節の用を廃したものとは
3大関節中2関節が用を廃したものと認定された場合は6級が、1関節が用を廃したと認定された場合には8級が認定され得ます。
関節の用を廃したものとは、以下の3つのいずれに該当する場合を意味します。
(1)関節が強直したもの
関節の強直とは、上述の説明のとおりです。
ただし、肩関節については、多少注意が必要です。
というのも、肩関節は、肩甲上腕関節が強直していても、肩甲骨が動くことによって、ある程度の屈曲や外転が可能だからです。
そのため、肩関節については、可動域の角度にとらわれず、肩甲上腕関節が癒合し、骨性強直していることがレントゲン写真などで確認できる場合には、強直しているものと扱われます。
(2)関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの
関節の完全弛緩性麻痺に近い状態とは、他人が動かそうと思えば動かせるものの、自分の意思のみで動かそうとした場合に、関節の可動域が10%程度以下になっている状態をいいます。
(3)人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
主要運動が複数ある関節に人工関節または人工骨頭を挿入された場合、主要運動のうち、いずれか一つが1/2以下に制限されていれば、関節の用を廃したものと認定され得ます。
たとえば、肩関節の主要運動は、屈曲、外転、内転ですが、このうち一つの運動が1/2以下に制限されていれば足ります。
6.関節の機能に著しい障害を残すものとは
3大関節のいずれかに、関節の機能に著しい障害を残すものと認定された場合には、後遺障害等級としては、10級が認定され得ます。
この、『関節の機能に著しい障害を残すもの』とは、次のいずれかに該当する場合をさします。
(1)関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
(2)人工関節・人工骨頭を挿入置換しているもの
つまり、人工関節または人工骨頭を挿入置換されている場合には、それだけで、10級10号が認定されえます。
これに加えて、可動域角度が1/2以下に制限されている場合には、上述のとおり、8級6号が認定されえます。
7.関節の機能に障害を残すものとは
3大関節のいずれかに、『関節の機能に障害を残すもの』と認定された場合には、後遺障害等級としては、12級6号が認定され得ます。
『関節の機能に障害を残すもの』とは、関節の可動域が、健康な側と比べて、3/4以下に制限されている場合を意味します。