まとめると
・医師に、きちんと自覚症状を伝えることは非常に重要
・ただし、あまりにも誇張した表現をしたり、病院関係者に神経質に当たってはいけない
・このような心因的素因を考慮して、損害賠償金額を減額されることもあり得る
今回の記事の題材となった判例
今回の記事は、東京地判平成12年3月14日・交通民集33巻2号523頁の判例を題材にしています。
この判例は、腰椎捻挫事案について、後遺障害等級12級を認定する上で、MRI所見を非常に重視した判例としても紹介しました。
今回は、心因的素因に着目して減額した点にふれていきます。
大前提として、医師にきちんと自覚症状を伝えることは重要
今回の記事は、交通事故被害者が、医師に対して、あまりに誇張した自覚症状を伝えるのは危険、というテーマですが、だからといって、控えめに自覚症状を伝えろ、というわけではありません。
医師は、患者の自覚症状をカルテや診断書に記載します。
診断書やカルテの記載は、後々に後遺障害の申請をする場面でも、損害賠償請求をする場面でも、非常に重要となります。
診断書やカルテに記載がなかった自覚症状が、事故から数か月経過して、突然、診断書やカルテ上にあらわれるというのはいささか不可解です(もっとも、ケースバイケースです。事故から時間が経たないと出ない自覚症状もあり得ます)。
そのため、痛みやしびれといった自覚症状があるなら、それは、遠慮することなく、きちんと医師に伝えるべきです。
交通事故の被害者が、医師に対し、自覚症状を余すことなくきちんと伝えることは、治療のためにも、そして、損害賠償のためにも重要と言えます。
ただ、あまりに誇張した表現をするのは注意という趣旨です。
判決の概要
今回の事件で、被害者の方は、
・極めて神経質であり、かつ、
・痛み等の訴について客観的にみれば誇張した表現をとっていると窺われることから
・原告の訴える痛みを中心とする神経症状の程度及び治療の長期化について、心因的要因の寄与を認めざるを得ず、
・頸推捻挫や腰椎捻挫(椎間板ヘルニア)の通常の治療期間が三か月から六か月とされていることや、
・入院することがあっても通常は個室を使用することはないこと等を勘案し、
→たとえば治療費の関係では、割合的に四割は原告自身の心因的な要因が寄与しているものと認めて減額するのが相当である、素因減額をされました。
ポイント
今回の判決では、極めて神経質な人だったと認定されていますが、これは、医師が診断書等で極めて神経質で個室入院を要すると記載した点、
意識不明などなかったのに、別病院に行った際に、三日間意識がなかったなどと説明した点
が重要視されたのではないかと思われます。
交通事故の被害にあった際には、痛みや不安から、精神的にも追い込まれることがあるでしょうが、医師との信頼関係は非常に重要です。
あまりにも誇張した表現をしたり、病院関係者に神経質に当たったりすることはないよう注意が必要でしょう。