まとめると
・自賠責の後遺障害等級認定(非該当含む)には、異議申立て等ができる
・異議申立てのポイントは、新しい医学的な証拠を提出することにあるのではないかと考えられる
・提出済みの後遺障害診断書や経過診断書を確認し、足りない検査があれば検査をし、また、後遺障害の存在を立証するために有用な検査がないか、検討すること
・交通事故事件を弁護士に依頼する際、異議申立て等が当然に契約内容に含まれているわけではないので、ご注意を
後遺障害の認定(自賠責)チャンスは一度きりではない
これまで、自賠責保険・共済の後遺障害等級認定の重要性と等級認定における弁護士の役割について、これまで解説してきました。
次は、示談交渉......といきたいところですが、ちょっと待った。
交通事故の後遺障害等級認定のチャンスは、一度だけではありません。
非該当など、納得のいかない等級になった場合には、異議申立て等の手続があります。
つまりは、自賠責の認定結果に納得がいかないので、再度審査してくれという手続です。
なぜ異議申立ては重要か
私は、自賠責の後遺障害等級認定に対する異議申立ては、交通事故事件を扱う上で非常に重要だと考えています。
理由は、これまで説明したように、
・後遺障害として認められるかどうかで損害賠償金額が大きく左右されうる
・裁判所は、自賠責の等級認定に拘束はされないが、重視する傾向にある
・交渉では、自賠責の等級認定と違う後遺障害を主張しても、相手損保は認めないのが一般的
というような理由もあります。
これに加え、異議申立ては、(後遺障害の種類にもよりますが)まったく無駄というわけではなく、むしろ、後遺障害の内容によっては認定結果が覆る可能性があるという点があげられます。
なぜ異議申立てによって自賠責の認定結果が覆ることがあるのか
異議申立てというのは、いうなれば、再度の審査を求める手続です。
審査するのは、同じ自賠責調査事務所です。
別の機関が判断するというわけではありません(別の機関に判断してもらう際には、自賠責保険・共済紛争処理機構に対する調停申立てを行います)。
同じ自賠責調査事務所が判断するのに、なぜ認定結果が覆るのでしょうか。
もちろん、何度もうるさく再審査をするよう求めているから、根負けして認定するとか、弁護士がついているから認定するとか、そんなことはありません。
理由は、立証という点に求められるのではないでしょうか。
自賠責調査事務所の審査は、書面審査を原則として行われます。
簡単にいうと、書面等で交通事故によって、こういった後遺障害が残ったということを証明できなければ、自賠責は後遺障害として認定しないというわけです。
また、医師は身体を治すために治療を行っているのであって、後遺障害を立証するために治療を行っているわけではないという点もポイントです。
そのため、後遺障害の存在を立証するために有効と考えられるような検査を行っていないがために、自賠責調査事務所も後遺障害として認定していないというケースもしばしばあります(つまりは、きちんと後遺障害の存在を立証できるような検査を行って異議申立てをすることで、結果が覆る可能性があるというわけではない)。
異議申立てのポイントと弁護士の役割
異議申立ては、ただ、「自賠責の等級認定の判断に不服があります」というだけでは覆らないでしょう。
きちんと、交通事故のため、こういった後遺障害が残りました、と立証をしていく必要があるでしょう。
では、弁護士が理路整然とした異議申立書を書くだけで、認定結果は覆るでしょうか。
残念ながら、私はそうとは思いません(後述する『新たな医証』がなく、陳述書と異議申立書だけで結果を覆したことはありますが、これはレアケースでしょう)。
自賠責調査事務所は、素人集団ではありません。
弁護士から文句を言われたというだけで、「はい、仰る通りです」などと判断を覆すことは、一般的にはないでしょう。
彼らが等級認定の判断を覆す際には、新たな医証、つまりは、最初の申請時にはつけていなかった医学的な証拠を重視しているのではないかと考えられます。
異議申立ての際のポイントは、ここでしょう。
提出した後遺障害診断書や経過診断書等を精査し、最低限必要な検査をしていないようであれば、検査を指示し、また、後遺障害を立証するために有用な検査が他にないかを検討する、場合によっては医師の意見を取り付けるなどし、「新たな医証」を提出していくことが肝要ではないかと考えられます。
弁護士に求められる役割も、こういったものではないでしょうか。
弁護士に交通事故事件の依頼をする際には、自賠責の後遺障害等級認定についても注意
このように、自賠責の後遺障害等級認定を覆す方法としては、異議申立てや紛争処理機構の調停といった方法が考えられますが、弁護士に交通事故事件を依頼する際は、この点に注意されたほうが良いでしょう。
これまで、さも当然のように、弁護士にはこういった役割が求められるのではないか、と書いてきましたが、交通事故事件を受任した弁護士は、当然に、異議申立ての手続等をやってくれるというわけではありません。
契約内容によっては、この点が委任事項に含まれていない場合もありえますので、弁護士と契約をする際には、注意されることをおすすめします。